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若州一滴文庫を訪ねて

2017/09/10

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夏も終わりに近づいた先週末のこと、福井県おおい町にある 「若州一滴文庫」に行ってきました。
若州一滴文庫は、おおい町生まれの作家、故・水上勉が作った施設です。
パンフレットには施設を作った思いが水上勉本人の言葉で載っていました。
(以下、一部引用)
「ぼくは十才で京都に出てしまったので村の小学校も卒業していない。家には電灯もなかったので、本も読めなかった。このたび、所蔵本が多くなったので、生まれた村に小さな図書館を建てて、ぼくと同じように本を読みたくても買えない少年に開放することにきめた。本は多くの人に読まれた方がいい。
どうか君もこの中の一冊から何かを拾って君の人生を切り開いてくれたまえ」

 

本館に入るとまずラウンジで生前の水上勉のインタビュー映像を見ることができます。
その中で水上勉はこんなことを言っています。「五人兄弟でとにかくけんかばっかりしてたんですね。母がサバを一匹焼いてくれると私は二番目だから身がもらえたけど、下の方の弟にはほとんど骨だけで、それでけんかになる。しかも母は食べていません。お腹をすかして一匹のサバを焼く火を見ていたんです。とにかく貧困だったので今は物があるのが本当にありがたい。靴下がはけるのがありがたいんです。いつも裸足でしたから」

 

お母さんは一匹のサバを焼きながら、何を思っていたのでしょう。そしてそんな母の背中を見て育った
水上勉。母親の存在と極限の貧しさがなかったら、きっとあの水上文学は生まれていなかったに違いありません。

 


若州一滴文庫の劇場門

 


入館はここで受付します。

 


敷地内にある「くるま椅子劇場」の入り口には水上先生の御影が。

 


くるま椅子劇場の舞台と背後に広がる竹林。
館内にはこの床に座る水上勉の写真もあって、ここに本当に先生が座っていたのだなと思うと感慨深いものがあります。

 


劇場を出たら小さな秋の風景に出合いました。

 


庭園内にある茅葺きの家 

 


散策するのにもちょうどいい広さの庭。
周囲と同じ、自然そのままの美しさがある庭です。

 

本館では、同じおおい町出身で水上勉の本の装丁や挿絵などを多くを手掛け、先頃86歳で亡くなった画家、渡辺淳(すなお)の特別展も開かれていました。この渡辺淳という人は炭焼きや郵便配達をしながら絵を描き続けるという質素で愚直な生き方を貫きました。水上勉が渡辺淳の中に自分と相通ずる部分を見い出し、二人がすぐに親しくなったであろうことは想像に難くありません。

 

竹人形館も圧巻です。撮影禁止なので写真はないのですが、水上作品を演じる60体の竹人形たちがまさしく今もそこに生きていたのです。飾ってあるだけでも物凄い存在感なのですから、文楽の舞台で動かしたら一体どうなるのか。きっと人形を超えた魂が吹きこまれるのでしょう。

 

一通り見た後は、休憩所「六角堂」でひとやすみ。お茶を出していただきました。麺類やコーヒーなども注文できます。

 

この一滴文庫の建つ場所は、水上勉のお母さんが辛い重労働をしていた田んぼがあったところだそうです。ここから少し離れたところには生家跡(もう家はなく、竹薮になっているとか)もあるそうなので、次にもし訪れる時は足を延ばしてみようと思います。(H.S)