主人公の結乃は福井のショッピングモールの化粧品売り場で働く美容部員。
宮下さんも福井出身で福井在住なので、「多分あのショッピングモールを想定して書いているのかな」なんて想像すると俄然身近な話に思えてきます。
タイトルの『メロディ・フェア』は、あのビージーズの「メロディ・フェア」のことです。
私の世代にはとても懐かしい曲で、大ヒットしたイギリス映画「小さな恋のメロディ」の主題歌
でした。この曲、結乃が働くショッピングモールの閉店時間になるとかかる曲なんです。
小説では、結乃の仕事や家庭での様子が淡々と描かれていくのですが、その中で絶妙なアクセントに
なっているのが福井弁です。
福井県民の私は、福井弁は通じにくい方言の一つだと思っていたのですが、宮下さんはネイティブな
福井弁を容赦なく挟んできます。話しの流れの中での方言は、地元の人が思うより意外と通じるものなのかもしれませんね。
また、接客の場面ではこんな会話もありました。
(結乃)「ほかはよろしいですか」
(客)「よろしかったですか、って言わんの。今はみんな、よろしかったですか、やろ。でも、よろしいですか、でよかったんや。なんや、すっきりさわやかやわ」
宮下さんはやはり言葉のプロ。ゆるやかなストーリーの中でも、昨今の妙な日本語についてはきっちりと物申してきました。
もうひとつ。先輩の美容部員が結乃に言います。
「ほっこりって言葉、やめたほうがいいわよ。何も考えてない子みたいに聞こえるから」
おー、「ほっこり」という言葉に異を唱える人がここにもいたかと私は思わず溜飲を下げました。
福井弁に癒されて、誰にでもある子どもの頃の記憶に導かれるような、そして化粧の持つ不思議な力についても改めて気付かされる小説でした。(H.S)