【 a は名詞につくアクセサリーではない】
―冠詞のない言語である日本語と、冠詞が論理的プロセスの根幹である英語の違い―
"Once upon a time, there were an old man and an old woman. The old man…"
―(むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは…)
日本語では最初に「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさん[は]いました」とは言えないのと同じように、英語で "Once upon a time, there were [the] old man and [the] old woman…" とは言えない。が、日本語の場合、一度そのおじいさんが「あるところにいたおじいさん」として紹介されたなら、その次のセンテンスから「おじいさん[は]」という表現は少しもおかしくない。それと同じように、英語の場合も一度そのold manが an old man who was として紹介されたら、語り手と聞き手の間の相互理解では、彼がthe old man となる。―
―英語で話す時も書く時も、先行して意味的カテゴリーを決めるのは名詞ではなく、a の有無である。適切な名詞が選ばれるのはその次だ。もし「つける」という表現をするなら、「a に名詞をつける」としか言いようがない。「名詞に a をつける」という考え方は、実際には英語の世界には存在しないからである。―
そう言えば、英語のネイティブ・スピーカーが、まず a や the を言ってから、ちょっと遅れて次にくる名詞を言う場面をよく見ます。たとえば、I ate a…a…a rice ball. といった具合で、a を繰り返しながら次に言う名詞を思い出しているのですね。