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角幡唯介著『極夜行』(きょくやこう)

2019年11月10日

ノンフィクション作家で探検家の角幡唯介(かくはたゆうすけ)さん著『極夜行』を読みました。

 


 

北極圏には、「白夜」の反対に何日も日が昇らない「極夜」という期間があり、その暗闇の中、一頭の犬(名前はウヤミリック)と八十日間旅した記録を克明に綴ったのがこの本です。それはスポンサーも付けず、GPSも持たない旅でした。

 

角幡さんは以前、あるテレビ番組でこう言っていました。
「冒険や探検は、宗教でいう巡礼に近い気がするんです」
「自分は、探検によって大昔の狩猟民の追体験をしたいのかもしれません」
そんな角幡さんのまっすぐで無駄のない眼差しの中には、自然に対する畏怖なのでしょうか、ほんのかすかに怯えがあるようにも見えました。

 

日々、当然のように太陽の恩恵を受けている私にとって、何か月にも及ぶ孤独で真っ暗な世界は理解をはるかに超えていましたが、角幡さんの明快な語彙、感性溢れる情景描写や、心象風景がリアルに伝わってくる圧倒的筆致のおかげで、私まで探検に同行させてもらったような達成感を得ることができました。探検の様子も決してストイックなだけでなく、笑ってしまうエピソードも多いし、自分の情けない部分も包み隠さず書いているのがまた潔いです。読んでいた何日間は、本を開いてエア探検することが私の生活のメインで、他の日常が何だかおまけに思えてしまうという不思議な感覚に陥っていました。

 

以下は本文からです。
「餌を減らしたうえ、一気に進んだことで犬は急速に痩せ衰え始めていた。寒さに強い犬種とはいえ、氷点下三十度以下での重労働である。あばら骨が浮き出て腰まわりが貧相になり、脚から尻にかけての筋肉がごっそりなくなっていた。身体中をなでて確認するたびに、可哀相で思わず涙が出そうになる」

 

犬に関しての描写は、やや醒めた感じがずっとしていたのですが、ようやくこの文章に出くわし、待ってました、やはり角幡さんにも血の通った優しい一面があったのね、と心底ほっとした私でした。そう言えば角幡さん、少し前にツイッターで「初めて胃カメラ飲んだ。苦しいですな、あれは」と言っていて、意外と普通の人だなと思いました(笑)。

 

さて次は、角幡さんがチベットにある世界最大のツアンポー峡谷に挑んだ時の記録『空白の五マイル』を読む予定。彼の書く文章はとにかく面白く、中毒性があるのか次から次へと読みたくなってしまいます。(H.S)

 


次の北極圏行きに向けて犬たちの訓練
ウヤミリックもいます(一番右) 
(画像は角幡さんのツイッター @kakuhatayusuke より)

 


そりを製作中の角幡さん
(画像は同上) 

 

【動画】 探検家 角幡唯介さんに聞くー「極夜」への挑戦(本人撮影の映像も)(11'44")