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ノモンハン事件と村上春樹著『辺境・近境』

2018年08月29日

お盆に NHKスペシャルで「ノモンハン事件」について特集をしていました。放送を見ながら、
村上春樹が以前はるばるノモンハンまで行って書いたルポを読んだ記憶が甦ってきたので、
本棚を探してみたら確かにありました。著書名『辺境・近境』より、「ノモンハンの鉄の墓場」です。

 

 

春樹氏は小学生の頃に歴史の本でノモンハン事件の写真を目にしたことがあり、それ以来どういうわけかその情景が頭に焼き付いてしまったのだそうです。

 

その後はノモンハン事件について書かれた本があれば読んでいたらしいのですが、その数は決して多いものではなかったとか。そして彼はしばらくアメリカに住むことになるわけですが、何と当時所属していたプリンストン大学の図書室にノモンハン事件に関する古い日本語の書籍がたくさん並んでいたのです。そしてここでも春樹氏はまた読み続けました。

 

彼がノモンハンの戦争に強く惹き付けられる意味、それはこの戦争の成り立ちが、ある意味では
「あまりにも日本的であり、日本人的であった」からではないのだろうかと言っています。

 

ルポは、克明に綴られたノモンハンへの過酷な道中や、塹壕や戦車が今も残る、というより放置されているモンゴルの果てしない草原、そこで拾ったある物のせいなのか体験した恐怖などなど、まるでその旅をドキュメンタリーで見ているかのようです。

 

この戦争に関する考察が一読に値するのはもちろんですが、一行が草原を走行中に出合った一匹の小柄な雌の狼(季節からして、子どものために餌を探していたのかもしれない)がガイドのモンゴル軍人に執拗に追い詰められ、(モンゴル人は狼を見つけると条件反射的に必ず殺すのだそうです)いざもう撃たれるという寸前の狼の、覚悟を決めた澄んだ目の描写があまりに鮮烈で哀しく、胸に突き刺さり、涙を禁じ得ませんでした。(H.S)