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第160回 直木賞受賞 『宝島』 真藤順丈著

2019年06月20日


『宝島』は、担当した編集者が「手がけた本の中でこの原稿が自己ベスト」「編集者生命を懸けて推します」と熱く断言した力作です。著者の真藤さん自身、スティーブンソンの同名小説にも引けは取らない自信がある、と言っています。

 

この作品では、戦後の沖縄を舞台に三人の少年少女が成長していく様子が、実在した人物や実際に起きた事件などと共に描かれていきます。瀬長亀次郎が登場した時には思わず喝采を送りましたが、宮森小学校米軍ジェット機墜落事件の場面では、あまりのむごさと理不尽さに胸がえぐられるようでした。

 

全編通して、とびきり熱くて濃くて力強くて、極上の冒険&ミステリー映画を見ているように感じる小説です。真藤さん、実は映画監督を志していたらしいので思わず納得でした。私は毎日少しずつ読んでいたのですが、日々読み進める楽しさが半端なく、続きをどんどん読みたい、でもそれも何だかもったいない気がして、少しでも長く浸っていたい、終わってしまったら寂しすぎる、と思う圧倒的作品でした。

 

文中の言葉の多くにウチナーグチ(沖縄の言葉)でのルビが丁寧にふられており、ウチナーンチュ(沖縄の人)でもない東京生まれの真藤さんがその労力を惜しまなかったことにも感服しました。そして、かっこで書かれたちょっとした補足がいつも面白くて思わずクスリとしてしまう、そんな真藤さんの笑いのセンスも好きです。たとえば―薄れる意識(と、パンツのゴム)をどうにか支えてグスクは建物の脱出を試みた。―(本文より抜粋)

 

ところで『宝島』というタイトルですが、沖縄には「命どぅ宝」(ぬちどぅたから=命こそ宝)という有名な言葉があり、真藤さんも意識していたのでは?と思うので、ある意味「命の島」とも解釈できるかもしれません。

 

来る6月23日は沖縄慰霊の日(1945年の沖縄戦で組織的戦闘が終わったとされる日)。今年はちょうど日曜にあたりますが、この日は毎年沖縄県では正式な休日となり、県、市町村の機関や学校がすべて休みになります。この機会に改めて沖縄の現状や犠牲になった多くの命に思いを寄せてみたいと思います。(H.S)

 


著者 直筆メッセージ
「戦果アギヤー」とは、戦後ウチナーンチュが米軍基地からさまざまな物資を盗むことで生き延びていた、その「戦果をあげた者」という意味